時速36kmというバンド

嫌になって飛び込んだ列車

私が時速36kmというバンドに出会ったのは高校1年生の秋。特に理由もなく、ただ強いて言えばめんどくさいからというだけで学校に行きたくない私はせめてもの抵抗として、校則違反の丈に切ったスカートを履き家を出た。なんとなく駅のホームについてしまってなんとなく憂鬱でたまらなかった。少し肌寒く、スカートの丈からはみ出した脚は鳥肌が立っていた。イヤフォンから流れる音楽がどうにもしっくりこなくてシャッフルを繰り返していたとき。そこで流れたのが時速36kmアンラッキーハッピーエンドロールだった。開始数秒で出てくる”闘争”や”怒り”という単語は私の”理由もなく”や”なんとなく”ばっかりの生活にはとても魅力的だった。強い意志や確かな怒りと愛そのどれもが私にはとっても羨ましく、躍動的で暴力的なボーカルの声は私の感性に深く突き刺さった。私はそのまま学校とは反対の電車に乗り次の駅で降りた。憂鬱な毎日の中で刺激的な音楽に出会い衝動で学校をズル休みする。安っぽい小説みたいで自分でも笑ってしまった。そのままカラオケに入り約7時間歌い続けた帰りcdショップでアンラッキーハッピーエンドが収録された輝きの中に立っているを買った。

全部一通り聴き終わった時駅のホームで感じた衝撃とは全く別物のの感動があった。あの一曲を聴いた時に感じたものが”出会ってしまった”だとすればこの時の感情は”やっと出会えた”だった。退屈に耐えきれない私の誰にも言えない贅沢な悩みの全てが、漠然とした不安やずっと感じてた違和感までもが形となっていた。優しさと切実さ誠実さが伝わるボーカルの声は簡単に私の居場所になった。それから数ヶ月して、学校生活を続けることが難しいと判断し、中退した。コミュニケーションをとることには長けていたし、勉強だってできない方だったがそもそも頭の良い学校ではないのであまり気にならなっかたし進級には問題なかった。この退学は私が初めて自分を守るために決断したことだった。そして間違いなく彼らの音楽のおかげだった。今だって悩みや不安がないわけではない。それでも、この決断をしてよかったと思える。うまく説明できないし自分でもよく分からないがそう言い切れる。叶えたい夢があるわけでもなければ、野望もない。それでも時速36kmの音楽がある限り私は安心して何かを失える。